小平市役所
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祖父、平櫛田中が一橋学園に家を新築し、移り住んだのは昭和45年6月、99歳の時でした。この地は、昭和10年ごろに祖母と将来の隠居場として求めたもので、二人は玉川上水の風景が特に気に入ったようです。その後祖母が亡くなりましたが、建築家大江宏先生と出会って、その流れるようなこう配の屋根を愛し、作品の厨子(ずし)などを依頼するようになり、さらに自宅の設計・建築もお願いし、昭和44年の正月明けに完成、竣工式を行いました。祖父が98歳で、九十八叟院(きゅうじゅうはちそういん – 叟は翁の意)と自ら名付け、以来10年間、亡くなるまで武蔵野の面影の残るこの地で暮らすこととなったのです。
「この家は岡倉天心先生か横山大観でなければ住みこなせない。わたしにはちょっと無理だな」とも言っていましたが、祖父は九十八叟院のデザインをとても気に入っていました。朝、庭を歩き回り草木の成長を眺め、年相応に楽しんでいるようでした。庭の木や花を愛で、好きな書を書き、孫やひ孫に会うのを楽しみに静かな毎日を送りました。
その九十八叟院が現在の記念館です。祖父の亡くなった後、作品と記念館・庭園を通して、明治大正昭和を彫刻一筋に歩んできた、祖父の芸術と人となりに触れていただこうと、作品や蒐集した美術工芸品、建物などを小平市に寄贈し、彫刻美術館としてふさわしい展示館も併設していただいて、早いものでもう25年を越えることができました。
これまで、多くの方々の熱意とご協力の支えがあってのことと深く感謝しています。
今後も、数少ない近代彫刻の美術館としての充実を図り、また、大勢の皆さまに「安らぎ」と「学び」の場を提供し、少しでもこの困難な時代を生き抜いていく糧となるよう努力してまいりたいと思います。
館長 平櫛 弘子 (平櫛田中の孫)