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市史編さんこぼれ話 No.1「上水新町に町が出来るはじめの話」

更新日: 2009年(平成21年)12月10日  作成部署:教育委員会教育部 図書館

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私たち一家がこの三多摩の小平に居を定めたのは、昭和33年頃でした。その頃の住所名は小川おがわ新田しんでん上水じょうすい向むこうと言いました。家も、道路も、上水道も、ガスも何もありません。畑と雑木林のみ、自宅の敷地に、上水用井戸、下水用の深い穴を二つ掘りました。


家が建っても電気はひかれていなくて、最初は、ローソクの火の生活がはじまり、まるで部屋が暗くて、戦時中の暮らしを思い出しました。それでもやっと電気がひかれて普通の生活が出来るようになりましたが、或る日突然電気が消え、停電かなと思い、翌日家を出て、空を見上げたら、電線がないではありませんか。新小川橋から創価小の700メートルまでの電線はドロボーにとられてなくなっていました。これには調べにきた巡査もアングリの状態でした。


上水道も穴を掘って始めの内はうまく使用できていましたが、水が枯れて出なくなりました。水がなくては一日も生活できません。しかたなく新小川橋の水車小屋で精米をしていた小島米屋さんの親切で、水を入れる大きな桶と、それを運ぶリヤカーを貸してくれました。一日何回か往復して水を運びました。


ガスはないのでプロパンガスを使用していました。道路は今のように舗装されていないせまい農道でした。冬になると霜柱が二層に立ちました。それを長靴をはいて霜柱をけちらしながら歩きました。けちらした霜柱に足をとられてスッテンコロリン…

お勤めの人も鷹の台駅まで長靴をはいて駅で皮靴にはきかえて電車に乗って出勤しました。でなければ皮靴は駅につくまでに泥だらけになったのです。朝の出勤に電車の時刻に間に合わなくて電車が到着している電車に向かって「待って、待って」と大声で呼びますと、電車は出発しないで待ってくれました。この電車に乗れないと次の電車は三十分後なのですから…。


でも一番困らされたのは、春一番の黄砂です。一メートル先も見えない程の黄砂は畠を横切り荒野をさえぎられることもなく、真っすぐに吹き荒れました。部屋中砂だらけ、タンスの引き出しの中まで黄砂は入り込んできました。その掃除は泣きの涙でした。この黄砂は一回、二回では終わりませんでした。吹き荒れる度に昼間でも雨戸もしめ、部屋の中でただただ静かにしていました。


その頃は、玉川上水には何の柵もつくられてはいない自然のままでした。春先に、農家の方が農作業中、突然玉川上水めがけて走り出してそのまま玉川上水へ飛び込みました。それを家の窓から何気なく見ていた私は、当分ショックから立ち直れない状態になりました。


小さな子供を一人で遊ばせることは危険でできません。近所に他の人も住んでいない中では子供のお友達もいません。娘の遊び友達は私のみでした。一日中、どこへ行くのも私がそばについて遊ばせました。上水にのぼって、そのまま歩いて行ったら玉川上水にドボン…です。本当にその頃の生活は朝から夜まで戦争のようないそがしさでした。若かったからそんな生活もできたのだと思いかえしています。それでも電線がひかれたことで、まわりに住宅用土地が売り出されるようになり、まわりに住宅も少しずつふえてきました。


それでも一定数増えてきますと、

[1]「上水道をひこう」

[2]「道路巾をひろげて舗装してもらおう」

[3]「外灯をつけてもらおう」

[4]「下水道をつくってもらおう」

[5]「ガスをひいてもらおう」

住民たちが協力して皆の力で、これらの難問を一つ一つ片付けて自分たちの生活を豊かにしていきました。


何もないところへ家を建て、設備を一つ一つととのえていき、今の上水新町の街づくりを目の前で見ながらがんばってきました。

上水新町の町名を決めたのは住民の私たちです。小平の中で一番先に町名がきまりました。そのあとから、上水本町、上水南町とつくられていきました。こうした町名はみんなそこに住んでいる住民たちが自分たちで考えてつけました。


住みはじめの頃は、朝になるとヒバリの声で目が覚めました。ヒバリは空高くやかましいくらいに鳴きました。珍しい動物や植物も沢山あり、夜などこのはずくが窓明かりめがけて飛び込んできたり、天井裏に侵入した野ねずみを追って蛇が入り込んで天井で運動会をして騒いだりしたこともありました。


娘も遊ぶ友達がいませんでしたが、小鳥や虫や珍しい花々が唯一の友達で、その頃、「虫めずる姫君」などと呼んでいました。

この様な毎日の生活、今は想像もつかないと思います。今思うと、なにかそんなバタバタした生活がなつかしく思い出されます。


お問合せ先

〒187-0032 
小平市小川町2-1325

中央図書館

電話:042-345-1246

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